広島高等裁判所 昭和29年(う)400号 判決
原判決挙示の証拠その他原審の取調べた証拠に現われている事実によると、被告人は昭和二九年四月二八日午後一〇時頃自宅で酒を飲んでいると、予て知合いの片岡省三が来て「古鉄が隠してあるのだが自転車を借りて一諸に取りに行こう」といわれたので「お前が盗んだのではないか」ときくと「二人の男が隠しているのを見たのであつて自分が盗つたのではない」と申したので、片岡が直接盗んだものでないことは判つたが、他人が盗んだものであつてもこれを持帰ることは矢張り悪いと判つていたけれども他に売れば多少の収入が得られると思つて片岡と共にその現場へ行き本件物件を堀出し自転車に積んで自宅に持帰る途中捕えられたものであること及び本件物件は大本高好の所有品で同市中広町の同人の鋳物工場にあつたものであるが、同日午後六、七時頃何人(氏名不詳の若い男二人)かがこれを盗み出し同工場附近の中広町新道路(公道)の砂の中に隠し格別見張り等も付けないで置き去つたものであつたことが各認められる。
さて、盗品に対し重ねて窃盗罪が成立するかどうかについては議論の存するところであるけれども、これを積極に解するとしても、本件は前記のように当時右窃盗犯人において見張り等を付けて看守していた形跡は認められず、且つ公道上のことであつてみれば、該物件は窃盗犯人の占有下に在つたものとは到底認め難いところであるから、従つてこれを不正に領得したとしても窃盗罪を構成せず、右は正に刑法第二五四条にいわゆる占有を離れた他人の物を横領した者に該当し同条所定の横領罪を構成するものと解するのを相当とする。従つて原判決がこれを窃盗罪として処断したのは事実を誤認したか又は法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつて他の論旨(量刑不当)に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条により原判決を破棄し同法第四〇〇条但書に従い当審において左のとおり判決する。
一、罪となるべき事実
被告人は昭和二九年四月二八日夜、予て知合いの片岡省三から広島市中広町九三七番地の大本高好方鋳物工場附近の新道路に、窃盗犯人の置き去つたものと認められる大本高好所有の銅子金型二個、おもり用インゴツト二個の存することをきき、同人と共謀の上不法にこれを領得しようと企て、自宅に持帰つた上他に売却する目的で同夜十一時過頃同人と共に右場所に至り、これを拾得して自転車に積取り以て横領したものである。(以下省略)
(裁判長判事 柳田躬則 判事 尾坂貞治 判事 石見勝四)